サンパウロ 2年間

 サンパウロ「Sao Paulo」の生活(2016年4月~2018年3月)を綴ります。

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2017年11月6日(月)
「ジェイチーニョ」

 「ジェイチーニョ」とは,「やり方,方法」という意味のポルトガル語「ジェイト」に「小ささ,親愛の情」を表す語尾「イーニョ」がついたものである。

 「ジェイチーニョ」とは,なにかやろうとして,それを阻むような問題や困難が起こったり,それを禁止する法律や制度にぶちあたったりした場合に,多少ルールや法律に抵触しようとも,要領よく特別な方法を編み出して,不可能を可能にしてしまう変則的解決策のことである。
それは,ときに妥協やしたたかさや巧妙さを伴うこともある。

 そうした「融通」は日本でも利く場合があるが,日本では,「例外措置」であるのに対し,ブラジルではジェイチーニョの名の下,堂々と社会的に認知され,「ブラジル人の才能」と称賛されている。

 このジェイチーニョが行われるのは,ブラジルの中に3つの基準があることから生じている。
3つの基準とは,①法律に依拠する基準,②血縁・地縁や友情などの社会ネットワークに依拠する基準,③人間の境地である。
要は,ブラジル社会は,二極化を嫌い,三元論が働くのである。

 例えば,「黒/白」のかわりに,「黒/白/ムラート」,「黒/白/インディオ」とか,「はい/いいえ」のかわりに,「はい/いいえ/まあまあ」などである。
まあまあは,ポルトガル語で,mais ou menos といい,ブラジル人が良く使う。
また,ficar em cima do muro といって,「塀の上に留まる」という言葉もあり,あいまいでいることを好む傾向にある。

 この③は,「もうひとつの世界」であり,その基軸がひとりとして同じ人がいない「人間」であるので,価値基準は相対的なものになる。
従って,日本人からみると気まぐれな理由で約束の時間に遅れてきたり,昨日言ったことと今日言うことが異なっていたりするのである。
いい加減な行動だとか,うそつきだと受け取る日本人がいるが,それは日本の価値基準の勝手な押し付けなのである。

 ブラジル人が親切で温かいという印象は,多くの人から聞かれるが,それは規範や制度を超越した人間を基軸とした「もうひとつの世界」を持っているからである。

 しかし,ブラジルには,現実社会に存在する偏見や物質的不平等もある。
下層階級にいけばいくほど肌の色も黒くなる傾向があり,社会的格差は人種の違いを抜きには語れない。そうした状況で,人種差別という形をとらなくても差別は行われている。

 例えば,ブラジルでは多くの集合住宅で,エレベータに「社会的エレベータ」と「業務用エレベータ」の二種類があり,住人や客人は,「社会的エレベータ」で,お手伝いや掃除婦,配達人は「業務用エレベータ」を使うように決まっている。
また,学歴によって拘置所が異なるというのも,ブラジルの差別社会の一面を表している。ブラジルでは,高等教育を修了している人は,特別拘置所に入ることが認められている。

 しかし,日本よりは『ありのまま』に人を受け入れてくれるという意味で,ブラジル社会は人に安心を与えてくれる。

(ブラジル人の処世術 ジェイチーニョの秘密 武田千香 著)

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