サンパウロ 2年間

 サンパウロ「Sao Paulo」の生活(2016年4月~2018年3月)を綴ります。

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2017年7月29日(土)
「ジェイチーニョという哲学(Angelo Ishi)」

 ブラジル人なら誰もが国民性の一部として認めているのが,
ジェイチーニョ(jeitinho brasileiro)である。この言葉は,「方法」「工夫」「やり方」を意味する「ブラジル流の問題解決法」である。
 
 ブラジル人は,「ノー」という言葉が嫌いである。無理な頼みごとをする場合,「ノー」と言い返されるだけで諦めるようなブラジル人は滅多にいない。
ブラジル人にとっては,単なる交渉開始の合図なのである。
頼まれた方も,交渉次第では妥協と合意の可能性があることを承知している。

 ブラジルには,デスパッシャンテ(despachante)という業者が至る所に事務所を構えている。彼らは役所等の手続き代理人である。人々は,このデスパッシャンテに手数料を支払って,役所関連やビジネス関連のあらゆる面倒な手続きを一切任せる場合が多い。
 デスパッシャンテは,複雑な手続き方法を把握しているだけでなく,各窓口の職員と顔見知りになるなど,人脈を巧みに利用する。そのおかげで,一般市民よりもスムーズに手続きが進められる。彼らは,いわば,ジェイチーニョのプロである。

 ポルトガル語にはもう一つ,ジョーゴ・デ・シンツーラ(jogo de cintura)という興味深い言葉がある。「腰の動き」という意味で,元々は選手の身体の柔らかさとリズム感を表すサッカー用語だったが,やがて日常生活のあらゆる場面で使われる言葉となった。
どんなに困った時でも,柔軟性と創造力を発揮して解決に臨むという姿勢は,ジェイチーニョ文化の基本である。国民もどんなことにでも臨機応変に対応できることを自慢する。

 さらにもう一つ,ブラジルで頻繁につかわれるキーワードは,「ジェルソンの法則」(Lei de Gérson)である。
これは,1970年代にサッカーのスーパースターであったジェルソンがあるタバコのCMで「あなたはいつどこにいても,相手より得しなければならない」といったセリフが流行して以来,「手段はともあれ,相手に勝つことを優先すべき」「結果良ければ手段は問わず」というような意味で定着した。これもまた,ジェイチーニョ文化に通じる人生哲学である。

 しかし,ジェイチーニョに対する寛容性が汚職を生みやすい環境と結びついているという事情がある。
 ジェイチーニョ否定論者のロウレンソ・ヘーガは,ジェイチーニョを求める側はわがままだとしても,それに応じる側には必ずしも下心はなく,困った時はお互いに助け合うべきだという博愛の思想,相互扶助の重視や思いやりの美徳もあると認めている。
 ロウレンソ・ヘーガは,それらのジェイチーニョの良い面を保ちつつ,権力の悪用や汚職のような悪い面をなくすことを提案している。

  (Angelo Ishi 著 ブラジルを知るための56章 から引用)

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